2011年10月09日

貧乏サヴァラン

食べ物が出てくる本が好きだというような事は前にも書いたかもしれませんが、森茉莉もおいしそうな食べ物の描写が多い作家の一人です。


森茉莉は森鴎外の長女で、50歳を過ぎてから随筆が評価され作家となりました。
自分を溺愛した父をその死後も慕いつづけ、本の中でもたびたびその思い出が語られます。
父を慕うあまり、関係ないことを書いていてもいつの間にか父の話になっている、ということもあるのですが、独特の世界観を持つ文章にひきこまれ、その点はあまり気になりません。

思い出ばかりで現実を見ていなかったというわけではなく、周りの人間を冷静に観察して書き表す筆はなかなか辛辣です。また、晩年の自分自身に関しても客観的な眼で書かれています。

茉莉が書いた文章の中でも特に食べ物に関するものを集めて収録したのが『貧乏サヴァラン』という本。
この中ではパンは麺麭、バターは牛酪といったように、日常で見慣れたものもなんだか優雅に書き表されてしまいます。
小さい頃食べたお菓子への憧憬、パリ滞在中のレストランでの食事など、おいしそうな描写はたくさんありますが、特に興味深いのが「私のメニュウ」と題された普段の食事の記録。
ビスケット、コロッケ、トマトスープといった普通のメニューですが、彼女の筆にかかるととてつもなくおいしそうに見えてきます。

忙しさにかまけてご飯をおろそかにしてしまうときもありますが、たまには気持ちに余裕をもってゆったりと食事を楽しみたいものです。


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posted by ベルカ at 16:39| 日記
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