本のなかでおいしそうな食べ物の描写が出てくると、そこばかり繰り返して読んでしまいます。
内田百閧フ『御馳走帖』や森茉莉『貧乏サヴァラン』といった食のエッセイに書かれているものは、普通の食べ物なのに、自分が食べているのとは全然別のものように思えます。
武田百合子の『富士日記』などは、その日食べたメニューが書いてあるだけでも、なぜかとてもおいしそうに感じてしまいます。
「食に関する本」を本屋さんで探していて見つけたのが、米原万里さんの『旅行者の朝食』です。

米原さんはロシア語通訳の第一人者といわれ、ロシア国内の文化・政治などにも造詣の深い人物です。
このエッセイは、食べ物の描写もよいのですが、それだけでなく、幅広い知識に裏打ちされた食べ物に関するうんちくがとてもおもしろい一冊です。
ロシア人が愛してやまないウォッカに関する章では、ウォッカに対するロシア人の思い入れについて、国内外の文献を引用しつつもユーモアあふれる文章で書かれています。
他にも、ロシアのすごくまずい缶詰の話、子どもの頃食べた幻のお菓子を探す話など、おもしろいだけでなく、ロシアや東欧の文化や歴史が織り交ぜられており、読み応えがあります。
米原さんは残念ながら2006年に亡くなられましたが、自身の発明にからめて社会情勢を読み解く『発明マニア』、行く先々でつい保護してしまう犬猫たちとの出会いと別れを書いた『ヒトのオスは飼わないの?』など、おもしろい本をたくさん遺されています。
『旅行者の朝食』を読む限り、米原さんは美食家であるとともに、ずいぶん大食漢だったようです。
私はあまり胃が丈夫でないので、とりあえず本の中でおいしい食べ物を楽しんでいます。
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